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パレットの盗難が月曜日だとしたら、彼が関わってると見て間違いない。望月先輩だけではなく、芳田先輩にまで被害を与えていたのか。 「呪いじゃなかったら災難だ。手に負える問題じゃない」 「犯人はこの高校にいる」 「おっ、名探偵の台詞」 「茶化すな。先生かもしれないし生徒かもしれない。犯人探し、しようぜ」 「パス。俺は忙しい。夏休みまでには11秒切りてぇから」 「そりゃ俺だって速くなりてぇよ。けど松井が困ってんだよ。力になってやりてぇよ」 「じゃあ僕が犯人探し、一手に引き受けるよ。二人は陸上に集中して」 「マジか、榛名!」 「出来んのか?」 「自信はないけど、いけるところまではやろうかなと。だからあんまり期待はしないで」 自信もなにも、僕は多分犯人を知っている。学年も、フルネームも今すぐ口にできる。 けど、言えない。脅されている。 犯人を知っているのに知らない振りをして、犯人探しをしないといけないのだと、僕は今更気付く。 「まあ、なんとか頑張ってみるよ」 安請け合いを悔いながらも、僕はぎこちない笑みを浮かべた。 嵐の前の静けさと呼ぶべきか、その日の放課後、六限目が終了しても波多野くんは現れなかった。 僕に公表する気がないと理解してくれたのか、それとも僕よりも魅力的な謎──と言うのは不謹慎かもしれないが──に惹かれ、一人情報収集しているのか。 引きこもりな探偵、女子生徒の奈々葉さんのために。 一年A組で「ハル」と呼ばれないことに安堵しつつ、けれども静けさが怖い。 昼食時、僕は犯人探しを行うと宣言したのだ。知っているのに調査するのは滑稽だが、言った手前しなければならない。 学生鞄を教室後ろのロッカーに収納し鍵をかけ、さぁどうしようか、と廊下で立ち竦んだ。
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