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桐山と森川の陸上部の活動のため第二グラウンドに向かった。調査をすると知っているのは二人だけで、その二人の目がないのなら、僕は教室の自席で時間が過ぎるのを待っているだけでもいい。 ──との選択肢は、早々に打ち消した。 調査すると信じている二人を欺きたくない。けれども調査のために訪れるべき美術室には行きづらい。 僕に向けられる負い目が辛い。それに加え、パレット盗難被害者の芳田先輩の不機嫌さが、美術室に充満している。 部員が居心地悪いと感じるのだから、出向こうとはどうしても思えない。 「はあ……どうしたらいいんだろ」 廊下の窓から第二グラウンドを見下ろすと、僕の口から幸せが逃げた。第二グラウンドでは、陸上部のウォーミングアップが始まっている。 体育館を背にする見学者は今日も女子生徒だけ。三年生の藤井先輩や、桐山に向かって黄色い歓声を送る姿が目に浮かぶ。 自分が招いた現状だが、本来なら僕も見学者の一人となっているはずなのに。 二度目の溜め息が窓にかかった時、微かに僕の耳に届いた。「俺やない」と声を荒らげて否定する、関西弁の声が。 声は上の階──いや、確実に二年C組からだ。波多野くんが現れなかったのは、彼の身に予期せぬことが起こったからか。 やはり、嵐の前の静けさだった。 声高な否定は、言い争いが起こっている証拠だ。波多野くんの身になにがあったのか。 知人が巻き込まれているから、ではなく、湧き上がる好奇心に耐えきれず、僕は足音を立てないように階段を上がっていく。 三階、二年C組の教室前には、教室を覗く生徒が十数人いた。糾弾と否定の声は大きく、前まで行かなくても会話が聞き取れた。
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