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「波多野。否定するだけ時間の無駄だって。いい加減白状しろ。お前が盗んだんだろ」
「してへんわ」
「じゃあなんでお前のロッカーから盗まれた芳田さんのパレットが出てきたんだよ」
「俺が知るか。パレットがひとりでに入るわけないから、誰かが入れたんちゃう?俺、ロッカーに鍵掛けへんの知ってるやろ。二年C組の共通認識やから、誰でも出来たんちゃう?」
「クラスメートに罪をなすり付けるのか」
「なすり付けるもなにも、俺やない言うてるやん。犯人は俺以外の誰かや」
「あくまでシラを切るのか。波多野、お前先週の月曜、食堂の落書きが発覚した時どこにいた?」
「それ今関係あるか?」
「いいから答えろ」
「そら食堂や。あんなえらい事件があって現場にいかん奴はおらんやろ」
嘘だ。食堂の絵画の落書き発覚時、波多野くんは美術室にいた。食堂の絵画に落書きしたあと、美術室に行ったのだ。
「その前は」
「前?」
「六限目終わりから食堂の落書きが発覚するまで、どこにいたんだよ」
「そんなん覚えてへんわ。そこら辺ブラブラしてたんちゃう」
「アリバイはないんだな」
「探偵気取りか。似合わんで」
「……」
一瞬の沈黙は、怒りを堪える時間か。
「食堂の落書きに、このパレットが使われたのは間違いない。赤黒いのに、どこか爽やかな青も感じさせるこの色は、芳田さんが偶然作った色らしい」
「私のパレットを使って落書きしたなんて許さない。それも『和』の絵画に!」
「せやから俺ちゃう言うてるやろ」
会話に出てくるパレットは盗難被害のパレットで、被害者も二年C組にいるようだ。
「お前のロッカーから出てきたんだ。言い逃れが通用すると思ってんのか」
「俺が言えるんはひとつだけ。俺やないってこと」
「波多野ぉ!」
「あのね。私のパレットを盗んだことも当然許せないんだけど、それ以上に私は『和』の絵画に、私の咄劣な色が足されたことが許せないの。あの絵画の価値知ってる?」
「数百万やろ。ホンマもったいないわ」
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