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「それだけじゃない!『和』の絵画が、食堂に飾られていたことにも価値があるの。あの絵画は私もだけど、遊莉の向上心も高めてたの」 「そら高い絵見たら頑張ろいう気に」 「違う!」 怒号、といより魂の叫びだ。野次馬の肩が大きく跳ねる。 「『和』は、遊莉の父親なの!」 知らない事実だったのか、野次馬が息を呑んだ。二年C組の教室前にいるのは、大半が二年生だろう。 望月先輩と同じ、二年B組の生徒だってきっといる。その、二年B組の野次馬が驚いたのだ。 食堂に飾られていた絵画の作者が、『和』が父親だと、望月先輩は公言していなかったことを証明している。 何故、『和』の絵画が食堂に飾られているのか。経緯は知らないが、望月先輩が公言しなかった理由は、なんとなく想像がつく。 数百万円の値がつく絵画の作者の娘が、美術部に所属しているのだ。同じ、油彩画の風景画を描いている。 色眼鏡で見られたくなかったのだろう。おそらく、ごく親しい人にしか打ち明けてないはずだ。 それを、頭に血が上っていた芳田先輩が、声高に漏らしてしまった。 多数の野次馬は、この事実を放っておかない。嘘だった、あるいは吹聴するなと釘を刺しても、誰一人きっと聞き入れない。 現に、何人かすでに、スマートフォンを操作している。 波多野くんを責めることが優先されているのか、重大な暴露を口にしてしまった事実など無かったかのように、芳田先輩が口を動かす。 「あなたは私のパレットを使って『和』の絵画を汚すだけじゃ飽き足らず、遊莉の絵にまで落書きしたんでしょ。望月親娘がそんなに憎いの!?」 「あの絵の作者が望月の父親やって今知ったわ。嘘ちゃうからな。それに俺は落書きなんかしてへん。食堂の絵にも、望月の絵にも」 「波多野。証拠が、お前のロッカーから出てきたんだぞ」 「濡れ衣や」 波多野くんはきっと、毅然とした態度なのだろう。必死に糾弾する芳田先輩や、探偵的立場の男子生徒の憤りが、心苦しい。
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