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悪人は波多野くんだ。二年C組の教室に突撃して、落書き犯は彼だと名指ししてやりたい。
けど、出来ないのが苦しい。自分の保身のため、も少なからず存在しているが、波多野くんが犯人だと示す証拠を、僕は持ってない。
彼の口から、「自分が落書き犯」と告げられただけだ。
僕が写る食堂の写真は別の生徒が撮ったもので、波多野くんは食堂にはいなかった。
しかし、食堂にいなかったからと言って、美術室で落書きしていたとはならない。
「俺は落書きなんかしてへん。証明したろか?」
「してみろよ」
言い逃れが出来る自信と、矛盾を容赦なく突く自信が、言葉から溢れている。二人とも強気で、さながら探偵と犯罪者のよう。
「まず食堂の方やな。これは、ある男の推理やと、事件当日の十八日、昼食時に窓際の席で飯食っとった奴が、誰にも気付かれんように窓の鍵開けて、六限目終了と同時にそっから忍び込んで落書きしたようやけど、俺は悪いけど窓際では食ってへん。カウンターに近かったな。なあ立花?」
「一週間前だからはっきり覚えているよ。間違いない。友人の証言に信憑性があるのかは不明だけど」
「いらんことは言わんでええ」
立花、と呼ばれた先輩の声には聞き覚えがあった。白石先輩が持ち出した望月先輩の作品を、波多野くんと一緒に美術準備室に保管した男子生徒だ。美術部員だ。
庇ったことで、美術部での居場所を失うかもと危惧したからこそ、最後に付け足したのだろう。
「二人で静かに、ってわけやないけど、大声出して食っとったわけでもないか、第三者の証言は得られんと思うわ。信じてもらうしかない」
「信じられる根拠が少ない。まず、ある男とは誰だ」
「白石や。白石亮太郎」
「亮太郎か……」
名前を漏らしたあと、間があった。親しい間柄だからこそ、白石先輩の推理を否定しないのだろう。
生真面目で質実剛健で几帳面。赤崎先輩が述べた白石先輩の性格は、およそ探偵向きだと言える。
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