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波多野くんや立花先輩の言葉に信憑性がなくても、白石先輩の推理なら信憑性は高いと思ってる。 否定する理由がない。数瞬の沈黙には白石先輩への信用が確かにあった。 「もし仮に、それを信じるとして」 推理を肯定して、話が進む。 「それだけでは、無実の証明にはならない。目を盗んで鍵を開けることも可能か不可能かなら、可能だ」 「言うたやろ。六限目終了と同時に窓から忍び込んでって。芳田のパレットを美術室に盗みに行ってる時間はないぞ」 「C組は月曜日、五限目に美術の授業がある。授業中はさすがに無理だろうが、休み時間に忘れ物したと戻り、準備室で盗みを働くことは可能だ」 「盗んだパレットを気付かれんようにロッカーに隠して、六限目終わったらロッカーから出して落書きしに行ったと?パレットはでかいやん。腹や背中に隠しても動きでバレる。俺のそんな不審な行動を誰も見てへんのやから、俺は盗んでない」 「落書き前はロッカーではなく、食堂裏の茂みにでも隠しておけばいい。十五日に小火騒ぎがあったんだ。近付く生徒はいないんじゃないか」 挑戦的の物言いに、波多野くんは黙した。呆れているのか、圧され気味に危機感を募らせているのか、言い訳を必死に練っているのか。 態度や表情を窺い知ることができない僕には、口調で判断するしかない。波多野くんが口を開く。 「白石の推理やと食堂の落書きは三時三十八分より前らしい。三十分に授業が終わって、急いで食堂行ってパレット使って落書きしたら、絵の具があちこち飛ぶんちゃうか。制服とか床とか」 堂々としていた。全く悪気を感じさせない。 「細心の注意を持って行えば問題ない」 「俺にそんな器用な真似できひん──ちゅうんはなんの証拠にもならんな。さて、どないしよかな」 「無実を証拠するんじゃないのか」 「芳田のパレットが盗まれたんは一週間前やろ。で、次の日から風邪引いて三日も休んだ。三日も休むなんてひどい風邪やったんやな」 「関係ないし、あなたにはどうでもいい話でしょ」 「そうでもあらへん」 もしや、もしもの話やからな、としつこいほどの前置きが、心証を悪くしていることに気付いてない。
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