17/30
前へ
/155ページ
次へ
「望月さんへの作品への落書きには芳田さんのパレットは使ってない、またはどこか──食堂裏の茂みにでも忘れてきたのなら」 「なんでやねん!食堂の絵に落書きしたばっかりなんやろ。せやったら次に犯人が考えるんはパレットを美術準備室に直すことや。手元に置いてたら自分がやりましたー言うてるようなもんやし。パレットの存在を忘れるなんて、そんなあほな犯人なんか」 「私のパレットが落書きに使用されたのなら、乾いてない絵の具がパレットに残ってるはずよ。注意して落書きを行って飛び散りは免れても、乾いてないパレットを持ち運ぶのは抵抗があったんじゃない。どこに隠しても、必ず付着するわ。制服の下でも、鞄のなかでも。だから、乾くのを待った」 「俺は望月の絵にも落書きしたんやろ?やったら同じパレットで、同じ絵の具使うっちゅうねん。それに隠さんでもええ。学校に残ってた奴はほとんど──いや、全員やな。全員、食堂に集まってたんやから。堂々と美術室行けるわ」 「それでも万が一という場合がある」 「じゃあ俺は、美術室になんも持たんと行ったわけやな。パレットも絵の具も」 「いや、絵の具はブレザーやズボンのポケットに隠せる」 「知ってるか?望月の絵の落書きは絵の具をぶち撒けた感じなんやで。何色も。俺が見た限りじゃあ、あれはほとんど絵の具一セットや。そんなけ個別にして持ち歩いたら、膨らみでさすがに分かるやろ」 「誰とも会わなければ問題ない。生徒の多くは食堂にいたのだろ?」 「美術室から誰もおらんくなるのを見計らって侵入して、準備室で望月の絵探し出して、ブレザーやズボンのポケットから全色絵の具ぶち撒けて何食わぬ顔して廊下歩いても、食堂の落書きに興味なくしたなんらかの部員に出くわすで。美術部の部長なんか一分もおれへんかったって話やし」 「偶然、誰とも会わなかった……」 「偶然に賭けて二つの落書きなんかせえへんで。それに言うたやん。望月の絵は絵の具をぶち撒けた感じやって。油絵の具は大体十二色で一セットやろ?」 確認を取ったのは美術部員の立花先輩にだろうか、芳田先輩にだろうか。首肯するなりしたのか、波多野くんの言葉が続く。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加