18/30
前へ
/155ページ
次へ
「時間ないなかで十二回もポケットから出して直して出して直してしてたら、さすがに制服に付くやろ。ポケットの裏側とか。なんなら調べるか?」 「買い替えたら済む」 「それも込みで調べたらええ。制服は学校経由やないと買われへんし、在校生が買ったら記憶にも記録にも残る。まさか先生は俺の仲間でーとか言うなよ」 一触即発な二年C組に、野次馬は固唾を呑んでいる。片瀬先輩と芳田先輩は沈黙している。 言い負かされたのか、反論の言葉を探しているのか。おもむろに口を開いたのは、片瀬先輩だ。 「……なら、絵の具は、美術準備室にあるものを」 「それかて結局、出して直して絵の具ぶち撒けるんやで?絶対飛び散るわ。それに少量でも、全色使ったらバレるんちゃう。新品に近かったり、残り少ない絵の具使ったら。そんなんあったか?」 「なかった。部員以外が使った形跡も。美術部のルールとして絵の具は、色の名前が書かれてるのが表にして仕舞うよう徹底されてる。個々に与えられている絵の具を手にして、不審な声を上げた部員は一人もいなかった。断言できる」 「そのルールを波多野が知っていたら」 「それならロッカーも同じことが言えないか。大矢がロッカーの鍵を掛けないことを知っていたら、罪を被せられる。俺は大矢を信じることにした。大矢はパレットを盗んでない」 美術室での居場所より、波多野くんの味方でいることを優先した、のではなく、心から波多野くんの言葉を信用する、断言した口調。 「大矢の言う通り、盗んだパレットを手元に残しておくのはどう考えてもおかしい。一週間あったんだ。いくらでも美術準備室に忍び込んでパレットを置くことは出来た。もし仮に手元に残しておくにしても、パレットは鞄に入る大きさだ。持って帰れば安全だ」 「乾くのを待ってたら時間がたった」 「一週間もか?一日、二日あれば乾くし、不安なら袋を被せればいい。持ち帰る方法はいくらでもある。手元に、しかもロッカーに、しかも一週間たっての発覚は、むしろ大矢が犯人じゃないことを証明してないか?」
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加