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仲の良い友人同士のスキンシップのような行動に、まだ残っている、波多野くんを見ている野次馬はどう思っているのだろうか。
「言いたいことあってもここじゃあかん」
耳元でそう囁いた波多野くんが、先に一人で階段を上がっていく。屋上前が目的の場所だろう。
立花先輩のおかげで、波多野くんの疑いは晴れたが、疑われた事実は消えない。僕と、同じ。
同じ境遇で、傷心を癒せる仲間が出来た喜びは、特にない。僕も彼も、自分の行いが招いた自業自得だ。
野次馬の視線を背に感じつつ階段を上がる。踊り場で立ち止まる。
野次馬はほとんどが二年生だからか、降りていく生徒はいても、上がってくる生徒はいなかった。
安心して残りの段を上がる。手持ち無沙汰だったのか、波多野くんが屋上に出るドアノブを回していた。
「開かないよ」
「解放されてへんだけで鍵は掛かってへんのかも、とふと思ったんやけど。あかん。しっかり掛かっとる」
しょうもないの、とそのドアに背中を預けて、階段の途中の僕を見下ろす。
「パレットは盗んでへんで」
「落書き犯だと自供した君に説得力はない──と言いたいところなんだけど」
二年C組での議論は、波多野くんの言葉は、ただの言い逃れ。波多野くんの口から、「自分が落書き犯」と告げられた僕にはそう聞こえたが、唐突に、ふと疑問が芽生えてしまった。
根本から覆すほどの疑問。
芽生え、成長するほど、波多野くんの言葉には信憑性があった。彼の目を見つめて、疑問を口にする。
「君は、本当に落書き犯なの?」
人気のない場所に連れて行かれての告白に、僕は無条件で信じてしまったが、波多野くんは口頭で述べただけなのだ。
犯人だと指し示す証拠を示したわけではない。僕がすぐに鵜呑みにしてしまっただけで、飄々としてる波多野くんが真実を語ったとは限らない。
方法だって明かされてない。言葉だけ。僕がそれを信じただけ。
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