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白石先輩の推理には、探偵的行動がある。食堂で働く調理師やパートの人、先生、美術部員。 その他にも聞き込みを行い、犯行時刻を推測し、僕を落書き犯だと推理した。最後の誤り以外は、事実だと受け取れる。 久保部長が訪れる以前の美術室にキャンバスはなかった、と証言できるのは僕だ。 望月先輩の作品への落書きは、美術準備室で行われた。美術部員が、食堂の絵画の落書きに間近で哀しみ、憤ってる間に。 食堂の絵画の落書きと、望月先輩の作品への落書き。二つとも、波多野くんにアリバイはないが、望月先輩の作品への落書きに関しては、彼が二年C組で述べた、犯行不可能説が有力だ。 望月先輩の作品への落書きは、午後三時四十分からの五、六分。美術室近くのトイレに隠れていて、無人となったのを見計らい侵入。 美術準備室で、望月先輩の作品を見つけ出し、十二色の絵の具をぶち撒ける。その絵の具の出所は、波多野くんが調達したのなら、行きと帰りに制服のポケットが膨らむ。 トイレに隠れるまでに誰かに出会うかもしれない。帰りの廊下で誰かに出会うかもしれない。 美術準備室に保管されている絵の具を使用したら、元あったように戻さないと美術部員が不審に思う。 いや、美術室内で落書きが発覚したのだ。絵の具がぶち撒けられた落書き。美術部員は真っ先に、美術準備室内の絵の具が使用されたと疑うのではないか。 それに犯行時刻の五、六分は、偶然に過ぎない。久保部長が一分以前に食堂を離れたのは偶然。 一目見て離れたかもしれないし、絵画が壁から取り外されるまでいたかもしれない。 久保部長ではなく、他の美術部員が早々に食堂から退室していたかもしれない。五、六分、長いようで短い。 いつ美術部員が戻ってくるか分からない状況で、絵の具十二色をぶち撒ける余裕はあるのか。 一色二色で、落書きとしては十分なのに、時間がないなかでわざわざ十二色。 食堂の絵画の落書きを目眩ましに使用しても、波多野くんはおろか、他の生徒にも犯行は不可能ではないのか。
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