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「C組の議論を聞いてて、思ったんだけど」 「盗み聞いてての間違いやろ」 「喧騒があれば、何事だろうと駆けつけるのは、無意識の行動だから」 「ハルの場合は野次馬根性しかあらへんやろ」 「……質問に答えて。食堂の絵画の落書きと、望月先輩の作品への落書きを行ったのは、本当に君なの?」 「ん?ハル勘違いしてへんか。食堂の絵の落書きは俺の仕業とちゃうで」 「白石先輩の推理だと二つの落書きは同一犯の仕業だし、今の言い方だと望月先輩の作品への落書きは認めることになるけど」 「それは認める。けど食堂のは俺やない。ホンマに。神に誓ってもええ」 荒らされた図書室を否定した時と同じだ。嘘じゃない、とすっと頭に染み込むように信じられた。 食堂の絵画の落書きは波多野くんじゃない。けど、望月先輩の作品への落書きは波多野くん。 同日に、短時間で美術作品に落書きが行われたのだ。同一犯の仕業と考えるのが的確で、推理に誤りはないと思う。 「なに難しい顔しとんねん。眉間鍛えてんか」 「いや、だって……」 「お前はなんで白石の推理を信じてんねん。あいつは無実のお前を落書き犯呼ばわりしたんやぞ」 「食堂で働いている人や、先生生徒に聞き込みをして導きだした推理に、間違いはないんじゃないかと」 「疑われたのに信じるなんて、お前ホンマお人好しやな。脱力もんや」 言葉通り、波多野くんの体から力が抜けていった。ドアに上半身を預けて、下半身はだらしなく伸びている。 人と会話を交わす態度じゃない。僕はただ、疑うよりも信じたいだけなのに。 不快感を露にしても、波多野くんの態度に変化は訪れない。 「食堂の絵に落書きした奴は知らん。望月の絵に落書きしたんは俺。これが事実。白石の推理が間違ってる」 「食堂の絵画の落書きのすぐあとに、望月先輩の作品への落書きなんだ。別々の犯人とは思えない」 「思えへんくても別々や」
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