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「食堂の絵画の落書きがあったからこそ君は美術室に侵入できたんだ。仮に君じゃなくても、食堂の絵画に落書きが行われたことを君は知ってたことになる」 「知らんわ。チャンス窺ってたら食堂の絵の落書き知って、すり替えるなら今やって美術室行っただけや」 「すり替える……?」 波多野くんの口が、あの形で止まる。いや、固まった。 「すり替えるってどういう意味?落書きされた望月先輩の作品は偽物ってこと?」 美術作品の場合は贋作と言うのだろうか。偽物にしろ贋作にしろ、望月先輩の制作中だった、精魂込めた作品はそれとすり替えられたのか。 六月末に締め切りとなるコンテストに向けて描画していた、大事な作品を。 「偽物?な、なんのこっちゃ。聞き違いとちゃう?」 「見苦しい。脱力してるから思考も抜けてたんだろ。君ははっきりとすり替えるって言ったから」 波多野くんは明らかに動揺している。だらしなかった体に力が戻り、僕から逃げている。階段を僕が塞いでいるから、一歩近付くごとに、一歩後ろに。 屋上前の踊り場に逃げ場はない。僕が階段を上がりきった頃には、波多野くんの背中は壁に付いていた。 「怖い顔して来んな」 「偽物とすり替えるたってことは、本物がどこかにあるってことだよね」 「理由があんねん」 「それは奈々葉さんって人のためであって、望月先輩は関係ない」 「奈々葉にも望月にも関係してる」 奈々葉さんは引きこもりの女子生徒だ。対して望月先輩は、食堂に絵画が飾られるほど有名な画家の娘で、自身も精力的に描画している。 対照的だ。僕には共通点が二年生ということぐらいしか浮かばない。 友人関係でも築いていたのか。それとも波多野くんが無理矢理に理由を結び付けてるだけなのか。
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