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「理由、説明してくれる?じゃないと僕、口が滑っちゃうかも」
「脅すんか?ええんかそんな強気で」
「落書きした方法も、作品が偽物だってもの分かった。作者の望月先輩にじっくり見てもらえれば、偽物だって絶対気付く。そしたら次は本物探しだ。美術部員総出で探すだろうからきっと見つかる」
「本物があっても、ハルが美術室に行った事実は消えへん」
「落書きをした犯人と方法が公になれば、僕を疑う人はいなくなる」
現時点で、落書き犯は不明で、もっとも怪しいのは訪問理由を話さない、不審な僕。
けれど落書き犯は波多野くんで、偽物とすり替えたという方法を公言して、美術部員が信じれば、僕の行動は不審だけれど事件とは関係なかったと記憶から薄れていく。
すり替える、という単純な作業でも、久保部長が訪れる前の僕には不可能だ。
偽物を事前にトイレなどに隠していて美術準備室に運んでも、本物は運べない。望月先輩のキャンバスは体に隠せるサイズではない。
一人での持ち運びは不可能ではないが、傷付かないように慎重に運んでいると時間がかかる。
もしかりに、久保部長が訪れる前に持ち運べて隠すことに成功したら、僕は美術室に戻る理由がない。久保部長と鉢合わせする必要がない。
それに第一、僕には偽物を用意できない。
画力が人並み程度だし、望月先輩の作品を目にしたのは、落書きされたあとだ。落書きされる前の作品を知らない僕には、模写は不可能だ。
美術部員な知り合いもいない。授業以外で美術室を訪れたのはあの日だけで、美術準備室には一切立ち入ってない。
「理由、教えてよ」
「来んなて!」
背は、壁だ。波多野くんに逃げ場はない。
腕を伸ばして拒絶の意を示しているが、僕はそんなのでは止まらない。立場が逆転したのだ。
ここ数日で積もり積もった、彼から与えられたストレスを発散できる絶好の機会。
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