29人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
ひぐっちゃんはにやにやした。
「けど、あいつのいってることは事実だよな。俺、九月から、何度お前の忘れ物、学校に届けに行ったことか。そのたびに不審者みたいな目で見られて、かなり傷ついた」
「不審者に見られるのはひぐっちゃんの外見のせいで、あたしのせいではありません」
「ひどい。なんで俺に矛先が向く?」
わざとらしく、よろよろ後ずさりした。
もうずいぶん大人なのに、金髪に染めた長髪に無精ひげ、顔には無数の傷あと。外に出るときは夏でも小汚いコートをはおっている。
その上、目つきがおそろしく悪い。
サングラスをしてる方が愛想よく見えるくらいだ。
「全国PTAが選ぶ、小学校に近づいてほしくないタイプ」ぶっちぎりのナンバー1だと思う。
あたしは攻撃を続けた。
「あたし、男の髪長いのきらい。男はスポーツ刈りが一番似合うと思う」
ひぐっちゃんはすました顔で対抗した。
「そりゃ個人の好みの問題ですからねえ。俺だって女のショートカットはあんまり好きじゃない。やっぱ、さらさらストレートの長い髪がいいなあ」
「なんか、いった?」
あたしはつやつやショートカットの頭をふりあげた。
「……いいえ、建設的な意見はなにも」
両手をあげて、わかりやすくこうさんのポーズをした。
あたしはふんと、鼻で息をついた。
「でもちょーっと遅刻したぐらいで、あのいいかたはないよ。あいつ、いいことひとっつもいわないんだもん。なわとびの三重飛び最初にできたの、あたしだよ! クラス野球で優勝したのも、四番でピッチャーのあたしのおかげでしょうが。なんで、そういう華々しいところから、わざと目をそむけるのよ」
「こないだ、男子三人にケガさせたじゃねえか」
「あれは、ぶーちんどもが弱い子をいじめてたから……あたしは降りかかった火の粉を払っただけだ!」
ひぐっちゃんはこぶしで笑いをおさえた。
「あなたは、往年の任侠映画ですか。まあまあ、そりの合わない野郎ってのは、どこの世界にでもいるもんだ。それをあらかじめ教えてくれるのが、学校のありがたいところだ。頭を冷しな。勝ち目のない勝負はしないほうがいい。まあああいうふうに人のあら捜しをする手合いは、自分こそが悲惨な家庭環境のど真ん中にいるに違いないんだから、かわいそうな奴なんだよ」
ところで、少し前からあたしは態度をすっかり改めていた。
最初のコメントを投稿しよう!