ザマーレイン

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ザマーレイン

こんなに星座がくっきりと見えるなんて驚きだ。手に取るようになんてレベルじゃない。 焼き海苔に錐で穴をあけて裏から照らしているんじゃないかと思うほど鮮明だ。 砂漠の空気は日本と比べ物にならないほど澄んでいる証拠だろう。 すぐ向こうの砂丘には小指の先ほどの炎がいくつも揺れていて、その数だけ羊肉の調理法があるのだろう。 集まった人々は三脚を立てたり双眼鏡を構えて星を眺めている。なかには本格的なキャンプを設営しているグループもいる。 駱駝も通わぬ僻地にわざわざ大枚はたいてやってきたんだもの。歴史的瞬間を見逃すまいと誰もが必死だ。 ツアー代金は片道だけでも6桁はする。それも装備品なしの最低料金だ。俺たちは一人あたま7桁払った。大学時代から貯めた金がパーだ。 それだけの代償を払って来るだけの価値はあるのかと聞かれれば、もちろん答えはイエスだ。 ここは荒天到達不能極と言って有史以来まったくと言っていいほど雨が降らない場所だ。年間平均降水量はゼロに等しい。 限りなく近いんじゃなく、まったく降らない。ここから数キロ先にトルーシャル乾湖があるが、地質調査によれば干上がって最低でも数十万年は経つそうだ。     
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