ザマーレイン

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言うまでもないが、海上や湖面で発生した水蒸気が雲をつくり、冷やされて雨を降らす。 ところが、トルーシャル乾湖の付近は半径数百キロ以内に十分な雨雲をつくる程の起伏がない。さらに入り組んだ季節風の影響で大気が淀んでいる。 そればかりでなく、地磁気というか不可解なメカニズムが作用していて雲一つない快晴が続いている。それを解明しようと各大学の研究チームが最新鋭の機材を持ち込んでいる。 「荒天到達不能極に果たして雨が降るのか?」という議論は懸賞金がかけられるほどの難題で科学者たちは決定的なモデルを構築できずに苦しんでいる。 最近ではあまりに難しすぎて永遠の謎に対する闘志よりもビジネスにどれだけ利用できるかという投資のほうが熱気を帯びている。 世紀をまたぐ疑問に解明の糸口を見つけたのは名もない町工場だ。食品衛生の湿度管理に関わる計測機器を製造している企業が戯れに検知器を試作した。 設計開発した本人は子供の自由研究を手伝う延長線上のつもりでいたが、のちに世間を騒がせるとは夢想だにしなかったようだ。 その検知器とは降雨予報機だ。気休め程度に降水確率を示すものではない。百発百中の精度を誇ると作者は主張している。旧来の予報機は湿っぽい空気を検出して降雨予想につなげる仕組みだ。     
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