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だから彼女は、ひいては他人は全て、「無限の存在」なのだ。無限にいろんな可能性が考えられる。「彼女はこう言う人間かもしれない」と言う一つの概念が存在し、「いやいや、彼女は実はこう言う人間なのかもしれない」と言うその概念を否定する概念が存在し、しかしどちらの概念も僕の意識の中ででしか成立し得ないから、死んでもやはり彼女の「真実」、言い換えれば彼女が真にどんな人間かと言うことなのだが、それを僕は知ることなどできないのだ。憶測だけが飛び交って、その「真実」は陽炎のようにゆらゆらと僕の目の前で揺らめき続けるのだ。
そう言えば今日日中歩いていたら陽炎が見えた。非常に暑い日であった。
「...ねえ聞いてるさっきから人の話?」
一方的な会話ばかりされていたので気づけば僕は空想の世界にいた。
「え、あ、うんなんだっけ大学の単位とれなかったんだっけ、どんまい、人生成績だけじゃ決まらないよ」
「は、落とすわけないじゃん、良過ぎて逆に自分がやってる授業って実は死ぬほど簡単なんじゃないかって心配してんのさ」
「まあ君にとっては簡単なんでしょ、流石だぜ」
昔から彼女は頭が良かった。落単などするはずもないのは分かっている。それでも冗談が言いたかったのは、多分優しく吹いた夜風のせいだろう。
「ふふん、まあね、ほら、私天才だから」
そういって冗談を冗談で返すのは、いつものことであった。だからいつものように返すのだ、「はいはいすごいねー」、と。
「うわーうっざ」
時間で考えたら、どれくらい彼女と喋っているのだろうか。そんな疑問が頭を過るくらい、彼女とは死ぬほど喋った。だからお決まりのテンプレ的な会話もあるし、お約束の返しもある。
それが心地よいと思ったのは、気のせいだろうか、それとも知覚的な認識からだろうか。
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