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雨の日にご用心
雨が降っている。教室から外を見ればそれは一目瞭然で、校庭とその先の住宅街というお馴染みの風景は、窓の水滴と雨粒が描く無数の縦線によって微かにぼやけていた。6月の日本の平常運転。
短い黒髪、中背の高校1年生である俺は、教室後方のスライドドアに目をやった。井山はまだ戻ってこないようだ。雨の日の放課後の校舎で特に何かが起こるとは思っていないが、だんだん成り行きが心配になってくる。俺はついに立ち上がった。
「マジかよ中川、井山なんて放っとけって」
「そうだぞ、無粋ってやつだよ」
だらだらしていた普通科のクラスメイト達がからかい気味に声をかけてくるのに、ちょっと臭い演出とは思いつつも、俺は手を上げて応じてやった。
きっかけはクラス一のモテ男井山の気まぐれだった。このところの雨で、我が校の弱小サッカー部は――ちなみに俺の弱小テニス部も――頻繁に休みになっていたため、彼は暇を持て余していた訳だ。
『そうだ。告白、しよう』
……とは言わなかったが、井山はおととい唐突に告白することを決めた。シャドウオブアースというゲームアプリで奴と対戦中だった俺は、半分上の空で誰にするのか聞いてみた。答えは水野。同じクラスの地味めな女子だ。どブスという訳でもないが、ペットのハムスターに「ジロー」という名前をつけて一人で延々と戯れていそうなあのオーラは、絶対にモテない。本気ではない「ウソ告」だとすぐに分かった。面白そうだし上の空だったので俺は止めなかった。
決行は次の雨の日、つまり今日で、巷ではSNSでウソ告をするのが流行っているらしいが、アカウントを知らなかったので、伝統ある対面方式が選ばれた。そして先ほど、教室を出た水野を少し遅れて井山が追い――現在に至る。以上、状況整理終わり。QED。
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