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大きな病院の中の新生児室の前は、ちょっとした人だかりになっていた。
それぞれの赤ちゃんの親族の塊が、鼻は誰々に似ているが、口は向こうの血筋だとか、そんな話で盛り上がっている。
病院という場所で、そこだけお祝いムードに満ちている。
山口沙織の赤ちゃんは、いちばん端で眠っていた。
ピンク色のベッドでピンク色の毛布を掛けられ、小さな拳を握った両腕を万歳にしていた。
おれたちはただ赤ちゃんを見ていた。
何かが胸に押し寄せてきたが、言葉にできなかった。
ふと、隣の赤ちゃんの親族らしき老婆が、そっとおれの二の腕に、手を添えた。
おれは自分に触れたその皺だらけの手を見て、老婆の顔を見た。
「いい子だよ、とてもいい子だよ、ねぇ」
その老婆が何を思って、言葉をかけてきたのか、知る由も無かった。出産に関わる場所が、悲喜こもごもだと経験で知っているのかもしれない。
「そうですね、ありがとうございます」
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