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乗ってきたアクセラの助手席に、坂本さんを乗せて病院から自分の職場のビルへ向かった。
エレベーターで最上階に上がった。
そこからさらに上へとあがる階段を登った。
屋上へ続くドアを開けて、外へ出た。
おれは花束を探して、辺りを見回した。
花束は、東京タワーが見える一角に置かれていた。
二か月程前、最上階にある広告代理店の39歳の男性社員が、このビルのまさにここから、投身自殺をした。過労が原因だとか、不倫をしていたとか、会社の金を使い込んだとか、いろんな噂が流れた。同じビルのテナントとして、大事件だった。
けれど一週間もしないうちに、その話題は持ち上がらなくなった。
東京タワーの向こう側に、入道雲が高く湧いているのが見えた。
山口沙織は、おそらくここに来た。
ビルの屋上は、上からも下からも、じりじりと焼けるようだ。たちまち汗が吹き出してくる。
坂本さんが、電話を掛けていた。
口調から、原さんとはなしているようだった。
途中、えっ、っと言ったっきり、言葉が途切れた。
入道雲がたちまち、真上にまで広がってきた。太陽を隠し、一帯が暗くなった。不思議なことに、東京タワーの反対側は、真っ青な真夏の空だ。
空を二分する様子は、どこかSFチックだ
妙な風が吹き始め、もうすぐ来るな、と思った。
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