Chapter 1

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電話中を除いて、どんな仕事の途中でも、昼の12時を過ぎたら食事に出ることにしている。 食べることが好きだし、食後にゆっくりしたいからだ。同僚と一緒の時もあるが、たいていひとりだ。 今日の店は、もう決めてある。昨日の食事のあと、回り道をした路地で見つけた。個人経営らしき喫茶店だ。 口の中はすでに、表のディスプレイにあった、ナポリタンの味になっていた。 会社の入っている15階建てのビルの、8階からエレベーターに乗った。 先客がいた。 臨月間近の様子の妊婦だ。半年前に出産したふたつ下の妹の、出産直前のお腹より、大きい気がした。 白くてつばの広い帽子をかぶり、うつむいてエレベーターの隅にもたれ掛かるように立っていた。
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