Chapter 1

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――これ、何の花の匂いだっけ…… どうして真夏のオフィス街に妊婦がいるんだろう?とか、いつもと違うエレベーターの中の匂いに、過去の記憶が刺激されたりで、すっかりナポリタンのことを忘れていた。 4階でエレベーターは止まった。 男が二人乗り込んできた。 上司と部下の会話をしていた。 この部下の男のほうと、この頃よく目が合う。朝このビルの前で。今日のような昼時のエレベーターの中で。退社したあとのビルのエントランスで。会社の隣のコンビニで。 こちらが気にしているのと同じくらい、向こうも意識しているのかどうか、最近、気にはなっている。 匂いのことやら、ランチのことやら、頭の中が思策で、ごちゃごちゃとしていた時、 いきなり背後で、ドサッと音がした。 振り返ると、妊婦がうつ伏せに倒れていた。 「どうしました!?」 急いでかがんで様子を見たが、すでに意識は無いように見えた。
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