Chapter 1

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エレベーターが1階に着いて、扉が開いた。エントランスロビーにも数人がいて、すぐにがやがやとし始めた。 上司らしき男が、救急車を呼んでいた。 「なあ坂本!ここの住所何だっけ」 坂本、と呼ばれた部下の男は、胸ポケットから慌てて名刺らしき紙を取り出し、上司に手渡した。 部下の男がおれの傍らにやって来て、膝をついた。 「ロビーにソファありますけど、移したほうがいいですかね?」 妊婦を見ながら坂本は言った。 「どうでしょうね、動かさないほうがいい場合もあるらしいし」 「そうですね」 坂本は言った。 「坂本!」 「はい」 「すぐに救急車来るらしいから、外に立ってろ」 「わかりました」 坂本はフットワークも軽く、外に飛び出していった。 入れ替わりに、上司の男がおれの側にやって来て、腰を下ろした。 「私、とりあえず救急車に同行しますんで、悪いがあなたと坂本とで、このビルの中に関係者がいないか、あたってみてもらえませんか?」 了解して、自分の名刺に携帯番号を記して、上司の男に手渡した。
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