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間もなく、救急車が到着した。三人とも何もできずに、妊婦が救急車に運ばれて行くまでの、一連の流れをただ見守っていた。
やがて救急車は、上司の男と共に大通りを走り去って行った。
とたんに野次馬はどこへともなく消えていく。
おれと坂本と同時に大きなため息をついた。
そして同時にお互いの顔を見た。
状況が違えば、お互い笑いかけるタイミングだった。だが今は、そんな雰囲気ではなかった。
名刺をもう一枚取り出して、携帯番号を書いていると、向こうも同様に自分の名刺に書いていた。
「おれ、8階から乗ったんですけど、上から来るエレベーターに乗ってたんで確率からして、8階から上探した方がいいと思います」
名刺を交換しながら、おれは言った。
坂本はおれの名刺を見ていた。
「工藤さん、じゃあおれは9階から」
坂本が顔をあげて言った。
名前で呼ばれて、少し妙な気持ちがした。
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