Chapter 1

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一旦自分のオフィスに戻り、上司の高橋に事情を説明した。 「あのサイレン、うちのビルだったのか」 話を聞きつけて、オフィスに残っていた数人が集まってきた。高橋の指示で、事務のふたりの同僚が手伝うことになった。 9階から15階まで、四人で合計12ヵ所の受付を回ったが、結局収穫はなかった。 全部回り終えると、2時にもうすぐなろうとしてた。 同じ説明を何ヵ所もするのは、ただしゃべるだけにも拘わらず、意外と労力を消費する。おまけに昼飯抜きだったので、余計にそう感じるのかもしれない。 「しょうがない、あとは管理会社に任せよう」 10階で落ち合った三人を前に、おれは言った。 「じゃあ、おれが管理会社に伝えておきます。原のほうで、何か分かったかもしれないし。ああ、さっきのおれの上司です」 坂本がおれを見て言った。 「そういえば、この方、坂本さん。坂本さん。うちの事務の松本と堀です」 英語のテキストみたいな紹介をしてふたりと挨拶を交わすと、坂本は自分のオフィスに戻っていった。 「うちの会社、あんまり他所と関わりないけど、坂本さんみたいに、こんなときちゃんと協力できるって、なんかいいですよね」 今年の新卒の堀が言った。 「坂本さん、感じのいい人だったな」 同期の松本が言った。 「なんだ、みんな坂本さんにメロメロだな。けどな、あの人の上司の原さんてのも、いい感じの人だったよ。私は救急車に同行しますって。緊急時の対応、素早かった。うちにはいないタイプの上司だね」 「じゃ、工藤は、その原さんにメロメロってことで」 「なんだそれ」 腹が空きすぎて、みんな言動がおかしいだろう。
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