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どんなに忙しくても天気予報だけは見るようにしている。
どちらかといえばアウトトアな彼女が、雨の日は家から出ない。
「えー、明日も雨なの? やだなぁ」
天気予報を見ながら彼女がぼやく。
「明日は買物に行きたかったのに」
「晴れた時に行けばいいじゃないか」
「でもせっかくの休みなのに」
「だらだらする日があってもいいと思うよ」
不満そうにとがらせた口唇にちゅっと軽くキスを落とす。僕は雨の日が好きだ。
「……梅雨の時期はいつもだらだらしてるじゃない……」
「休む為の時期なんだよ本当は」
彼女の顔中にちゅ、ちゅとキスを落とし、視線でお伺いをたてる。
「……休む為の時期なんじゃないの?」
ほんのり赤くなった頬が恥じらいを伝える。なんとかわいくて愛しいのだろう。
「家で休む為の、だよ。明日のごはんは僕が作るから」
「……もう」
目を伏せたのが了承の合図。
いっぱい抱きたいから、僕は彼女を抱き上げてベッドに運んだ。
小さい音の目覚ましの音で僕は目覚めた。昨夜じっくりと甘く抱いた彼女はこれぐらいの音では起きない。それでも急いで止め、腕の中で眠る彼女の様子を見る。起きる気配は全くなさそうだった。それほど早い時間に設定したわけではないが、遮光カーテンの隙間から入ってくる光は弱い。
ああ、雨だな。
寝室を出てリビングダイニングのカーテンを開けると果たして雨だった。
雨の日は空が雲に覆われるから世界が暗くなる。そして空気が湿気を含んで重く感じられる。
そんな日は決まって、彼女はいつまでも起きてこないし出かけようとはしないから。
だから僕は、雨の日が好きだ。
ごはんの前にお茶を淹れてあげるべきだろうか。それともゆっくり寝かせてブランチを用意すべきか。
幸いな雨の日の過ごし方を考えながら僕は鼻歌を歌う。
「土日はいつも雨が降ればいいのに」
そうしたら彼女をいつだって独り占めにできる。
結婚資金も早く貯めなくては。
彼女のために紅茶を淹れながら僕はそんなことを考えた。
おしまい。
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