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そして前を向いたまま微笑み、静かに涙を流した。
その笑顔はとても美しかったけれど、佳奈は勘違いをしていた。
俺は幽霊じゃない。
二日休んで登校しただけだ。
わけもわからず話しかけた俺を佳奈は無視して、それでも誘うように教室を出ていった。
あとをついていった俺は、誰もいない屋上への扉の手前で佳奈と向きあった。
佳奈は確かめるように俺を指でつつき、また驚いていた。
そこで話をして、佳奈の誤解を解こうと試みた。
それでもその日は一日、はれものにさわるようなよそよそしさがどこか感じられた。
下校時も佳奈は少し離れてうしろからついてきた。
そして玄関で「ただいま」といったとき、うしろのほうで佳奈は大泣きしながら「おかえり」といった。
それは現実世界への「おかえり」のように聞こえた。
そうだ、そのときだ。
うちの玄関先でいつまでも佳奈が泣きやまないので、俺は佳奈の頭をなでていたのだ。
佳奈の髪の毛は細くて軽くてはかなげだった。
佳奈は変わっている。
それはいまにはじまったことではない。
佳奈はときどき想像の中で生きている。
きっと想像と現実には境があることを、佳奈だけは知らないのではないだろうか。
そんな佳奈だけど、俺は嫌いじゃない。
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