第一章 祐一郎

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そして前を向いたまま微笑み、静かに涙を流した。 その笑顔はとても美しかったけれど、佳奈は勘違いをしていた。 俺は幽霊じゃない。 二日休んで登校しただけだ。 わけもわからず話しかけた俺を佳奈は無視して、それでも誘うように教室を出ていった。 あとをついていった俺は、誰もいない屋上への扉の手前で佳奈と向きあった。 佳奈は確かめるように俺を指でつつき、また驚いていた。 そこで話をして、佳奈の誤解を解こうと試みた。 それでもその日は一日、はれものにさわるようなよそよそしさがどこか感じられた。 下校時も佳奈は少し離れてうしろからついてきた。 そして玄関で「ただいま」といったとき、うしろのほうで佳奈は大泣きしながら「おかえり」といった。 それは現実世界への「おかえり」のように聞こえた。 そうだ、そのときだ。 うちの玄関先でいつまでも佳奈が泣きやまないので、俺は佳奈の頭をなでていたのだ。 佳奈の髪の毛は細くて軽くてはかなげだった。 佳奈は変わっている。 それはいまにはじまったことではない。 佳奈はときどき想像の中で生きている。 きっと想像と現実には境があることを、佳奈だけは知らないのではないだろうか。 そんな佳奈だけど、俺は嫌いじゃない。     
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