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私がまた妄想の世界をただよっているあいだ、祐ちゃんは現実世界で私との結婚式のために頑張ってくれていた。
私がこの子とふたりで生きていく決心をしているあいだ、祐ちゃんはずっと三人で暮らすことを願っていてくれた。
祐ちゃんに申し訳ないと思うよりも、祐ちゃんだけでなくすべての人に感謝でいっぱいになった。
だから私はいつのまにか涙を流していたようだ。
「佳奈、なんか変わったね。静かに泣いてるなんて……。それが嬉しい涙なら俺も嬉しいな」
そういった祐ちゃんは手を伸ばして、私のほおを包んだ。
その手が温かくて、その言葉が温かくて、涙がさらにこぼれてくる。
それを祐ちゃんがぬぐってくれた。
私は祐ちゃんにいった。
「いまから一緒に、産婦人科に行こう」
「……え? もしかして、あれからまだきてなかった?」
驚いた顔の祐ちゃんを見つめて、私は笑ってうなずいた。
「おめでとう。いや、ありがとう、だな」
「気が早いよ。それをこれから確かめにいくのに」
私は思わず笑った。
ふたりとも変わっている。
みんなとはどこかずれている。
でもずれたところで私たちはひとつになっていると思った。
それからふたりで笑った。
朝の公園を散歩しているおじいちゃんが不思議そうな顔をしている。
それでもなぜか微笑むと、うなずきながら歩いていく。
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