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白い息が止まった。驚いたように口を半開きにして翔は私の顔を見つめる。
「覚えてるみたいだね」
「……ああ」
すぐに目線は逸らされてしまったけど。
「あの言葉、今でも思い出すんだ。イヤホンつけて一人になったときとか」
赤色のマフラーを引っ張る。何かに触っていないとまた誤魔化してしまいそうだったから。
「私、ずっとこうして翔の隣にいれるんだと思ってた。思ってたっていうか、疑ってなかったっていうか。それが私にとっての普通で、当たり前のことで、それでいて特別なことで」
だから、だから、グサッと突き刺さったんだ。氷柱のように私の心に。
「だけど、それは私が勝手に思い込んでいただけだったの? 私と翔は最初から一緒にいなかったの?」
溢れそうになった涙は、温かい何かに包まれて止まった。って、え?
「……違う」
すぐ耳元で声がする。だんだんと顔が熱くなってくる。背中にあるのが腕で、顔が当たっているのはーー。
腕が肩へと移動し、顔が離れると急に冷気が身体中を突き抜けていった。唇がしびれたみたいに動かない。
「恥ずかしかったんだ。一緒にいるのが。周りからは冷やかされるし、どうやって隣にいればいいのかわからなくなって」
えっ? それってーーつまり。
翔は額に手を当てて大きく息を吐いた。その顔が赤くなってるのは寒さのせい?
「カッコ悪。まさかこんなこと言われるなんて思ってなかったし、こんなに傷つけてたなんて知らなかった……あのさ」
その黒い瞳に私の目はくぎづけになっていた。
「俺、この前、後輩に告白されたんだ」
知ってます。
「だけど、すぐに断った。他に好きなやつがいるって。そいつは、ずっと一緒にいるんだけど、飽きることなくて、からかいがいがあってーーつまり」
ちょっ、まっ! なにこれ、恥ずかしい!
「つまり、俺は、お前のことが」
どうしよう。心臓がうるさいくらいに跳ね回ってる。
「普通に好きです」
って、え……?
「ふ、普通に好き?」
「え? そう、普通に好き」
私は足元の雪をつかむと勢いよく投げつけた。
「そんな告白のセリフがあるか!」
「冷たっ! お前、彼氏に向かってそれはないだろ!」
「誰が彼氏だ! もう一回やり直せ! また変な思い出つくりやがって!」
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