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「玲花」
近藤さんの頭を撫でる謙信という彼。
「……っ」
彼の顔を見た瞬間、あたしの足はそこから動かなくなった。
「どうした、栞」
旬くんの声が聞こえたが言葉が出ない。
「?」
あたしにガン見されている彼はきょとんとした顔であたしを見る。
……忘れられてる。
こんなにもあたしは彼に惹き付けられたというのに。
相手はいとも簡単にあたしのことを忘れてくれていた。
「……これ、ありがとうございました」
あたしはカバンからタオルを出して近藤さんの隣にいる彼の手に無理やり渡す。
「あー……あのバスの」
やっと思い出したらしい彼があたしを見る。
「助かりました。行こう、旬くん」
旬くんの手を引っ張って走り出す。
あの場にあのままいたら泣いてしまいそうで。
奇跡を信じてたあたしがバカだった。
あんな気まぐれのタイミングで、覚えてるのなんて自分だけなんだ。
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