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「あの、」
「ん?」
「あたしでいいんですか?」
この人容姿端麗でなんだかミステリアスな雰囲気で。
こんな見ず知らずのあたしにタオルなんか貸してくれるぐらいいい人だからモテないはずなんかないのに。
「ラッキーだって思ったんだ」
「ラッキー?」
「この前の雨のとき」
ゆっくりと話す彼の言葉を包み込むように聞く。
「旬の幼なじみでしょ?」
「あ、はい」
「だからよく見てた。旬のことが好きなのかなって思ってた。でもいつしか俺のことを見てくれたらって思うようになってたんだ。キミはあのバス停で見るまで1度も俺のこと視界に入れてくれなかったけど」
彼の話す言葉にじわりじわりと胸が熱くなる。
知らなかった。
旬くんの隣にいたことなんて。
ただの一度も見た事がなかった。
「全然、知らなかった」
「だろうね、1度も目が合わなかったもん。だから、バス停にキミが来たとき嬉しかったよ。ずっと好きだったんだよ。栞」
彼に呼ばれた名前がこんなに心地よいとおもわなかった。
「大好き、謙信」
「これからは俺を見てね」
今日も雨の日。
梅雨があって、傘がなくなって本当によかった。
傘を盗んでくれた人にも感謝。
-Fin-
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