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誰も居ない、静まり返った玄関。
ザアザアと音を立てて降り注ぐ雨。
俺の目の色に似た、重く暗い曇り空。
授業をサボり屋上で眠っていた俺は、ぽつり、と顔に落ちてきた雨で目が覚めた。
時間を確認しようと携帯端末を見ると、どうやらもう授業は終わっている時間で、もうすぐ最終下校時刻になろうとしていた。
そして今、俺は玄関に居る訳だが、まったく止む気配のない雨に溜め息を吐き、鞄から折り畳み傘を取り出す。
今日は別に張り切ってないのにな…、と思いながら歩いていると、足元からピチャ、と音が聞こえた。
足を止め顔を上げると、校門の前には大きな水溜まりが広がっており、俺が踏んだのはその水溜まりの端だった。
水溜まり、か。
軽い気持ちだった。
子供の頃にやったように、水溜まりでも踏んで歩くかと足を踏み出し進め数秒。
ザブン、と音を立てて、俺は落ちた。
俺の口から出るのは、声ではなく泡。
俺を包むのはじめっとした空気ではなく、冷たい水。
息が苦しい。
必死に手を動かすが水を掻き分けるだけだった。
視界がぼやけてくる。
必死に手を伸ばすが光は遠ざかるだけだった。
水圧で圧し潰されそうだ…。
死ぬまいと動かしていた手は、力が入らなくなった。
何も出来ないまま、目の前が真っ暗になる。
俺は残っていた息を吐き出し、目を閉じた。
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