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家の裏まで歩くと、男の見つめる先には森に入る道があった。
「そのペンダントを首にかけて、泉に飛び込めば帰れるよ」
俺が手に握ったままのペンダントをチラリと見ると、それだけ言って森へと入っていく。
「……飛び込む!?」
「そうだよ、じゃないと帰れないからね」
何言ってんだ…?と固まっていると、男はどんどん奥へと進んでいき、慌てて追いかけると、それが当たり前とでも言うかのように返された。
「何で飛び込まないと―」
「君は」
突如振り返り、目に映ったその顔に、口から出た言葉は掻き消されたかのように消え、俺は息を飲んだ。
「そうやってこちらに来たんだろう?」
何で知ってるんだ、と言いそうになるが、きっと答えてはくれないんだろうと、俺は聞くのをやめた。
「……手伝い、あんなんでよかったのか?もっと何か―」
「気にしないでくれ、もう貰ったよ」
静かになった空気に耐えきれず、適当に話題を…、と口を開いたが、男は俺の言葉を遮り、食い気味で言葉を放って、心底嬉しいというような笑みを浮かべ、口を閉じた。
「何をだ?」
「ははは」
言っている意味が分からず、聞き返してもただ笑うだけだった。
俺が口を閉じると、俺がここへ来たのは曇天の目が関係しているだの云々言い始めた。
よく雨が降るなって思った事はないか?と聞かれ、そういえば俺の機嫌がいい時や、俺がやる気を出した時は必ず雨が降るな、と思ったが、言わないでおく事にした。
言い出したら引き止められそうな気がして、何も思い当たらないフリをすると、そうか分からないか、とその前に話していたものの続きを話し始めた。
話を聞いていたらいつの間にか着いていて、最後に少しだけ言葉を交わし、言われた通りに、俺はあの時のように、泉へと足を踏み入れた。
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