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マンションに住んでいる。同じマンションの違う階に住む両親の元へ小学生の息子をよく使いに遣るのだが、隣にセレモニーホールが出来てから息子の様子が少しおかしくなった。両親の部屋へ行くのを渋るようになったのだ。
「何かあったの?」と聞いても口籠もるばかりで要領を得ない。両親にそれとなく聞いてみたが、思い当たる事はないようだ。以降、それでも頼まれれば嫌々ながらでも行ってくれるので、その時はさほど気にも留めずにいた。
数年後のある日、息子と一緒に買い物をした帰り道、マンションまでもう少しの所で息子はこう言った。
「あのセレモニーホールの窓から、いつも同じ男の人が外を見てるんだよね」
職員が休憩しているんじゃないのかと言うと、
「そうかなあ、顔が灰色で表情がなくてさ、俺…じいちゃん達の部屋行くのに必ずその窓側を通ってたんだけど、そっちを見るたびに居たから少し怖かったんだよね」
何とあの頃、息子の様子が変わった理由が今知れたのだ。
なぜそれを言わなかったのかと聞いたら、ただ単に(上手く伝えられなかった)のだという。
今だから言えるのだと。
そして今もあの頃と変わらぬままに同じ窓から外を見ているのだと息子は言う。
「セレモニーホールは亡くなった人の葬儀をする所だから、お墓とか仏壇じゃなくてそこに居続けるってどんな訳があるんだろうね」
今も怖いかと聞いてみた。
「もう慣れたよ」
高校生になった息子は笑いながらそう答えた。
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