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てるてる坊主に虹がかかる日
「梅雨明け」とテレビの情報番組で聞いたのは、何日前だったろう。
静かに降り続ける雨音に絶えず鼓膜を揺らされながら、私は母に付き添う形で着いたテーブルで、葬儀屋の声をぼんやりと聞いていた。
「……それでは、明日の告別式はそのような運びで執り行わせていただきます」
「はい。どうぞ、よろしくお願いいたします」
ハリのない母の声にうっすらと意識を浮上させると、傍らの母が血色のよくない顔で弱々しく頭を下げていた。
町中を芯まで湿らせてしまいそうな長雨は、父が倒れた日から、絶えることなく降り続いている。家を訪れる親戚は口を揃えて涙雨ねなんて言っていたけれど、私はとてもそんな風には思えなかった。
蕎麦屋を営んでいた父は、いつもとても忙しい人だった。
開店前も閉店後も仕込みだ仕入れだと帰りが遅く、家でゆっくりと過ごすなんてことは、ほとんどないに等しかった。それでいていつも計り知れない活力や生命力に溢れ、疲れている様子など微塵も見せない、絵に描いたように元気な人だった。
周りの人には「百歳まで生きそう」なんて冗談まで言われていた父が倒れたのが四日前。仕込み中の厨房で、ばったりと倒れていたのだという。
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