てるてる坊主に虹がかかる日

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 母から連絡を受けて病院に車を走らせたときにはまだぽつぽつとフロントガラスに当たる程度だった雨は、父が目覚めないまま、日を追うごとにどんどんと強まっていった。  それは晴れ男だった父の命の弱まりを表しているようで、私の気分をたまらなく沈めさせた。そうして雨はやまないまま、父は帰らぬ人となってしまった。 「……やまないわねえ」  閉められたカーテンの向こう、時折強まる雨音が響く先を見つめるように視線を向ける母が、ぽつりとこぼした。 「千絵の涙かな。お父さん晴れ男だったけど、今日は千絵が勝っちゃったわね」 「お母さんまで」 「なあに?」 「……ううん。なんでもない」  雨は会話を遮るほどの強さではなかったけれど、今はそんなに多くを語り合いたくはなかった。それはお母さんも、きっと同じだ。  枕飾りの線香が短くなっているのを目に留めて、何を言うでもなく腰を上げる。取り上げた線香の一本へろうそくの火を移すと、短くなった線香に添うように、新しい線香をそっと立てた。 「お母さん、少し休んできたら。お線香は私見てるし、明日身体もたないよ」  交流のあった親戚にもお断りをして、母と二人、父と三人で過ごす、実家での最後の夜。一緒にいたい気持ちはあるけれど、憔悴しきったもう若くはない母に、一晩中線香の番をさせるわけにはいかない。 「それなら先に千絵が休んできて。お母さんは大丈夫だから」     
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