てるてる坊主に虹がかかる日

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「大丈夫じゃないよ。顔、青いよ。私こそ大丈夫だから、先にお母さんが仮眠してきて」  力なく笑う母にもう一度言い聞かせて、寝室で一度眠るように背中を押す。それでもまだためらっている母に、「お父さんも心配しちゃうから」と言い足すと、母はようやくその腰をあげた。  部屋を出かけて一度振り返った母は、眠る父に名残惜しそうな視線を向けてから、「じゃあ少しの間よろしくね」と私に微笑んだ。  眠る父と二人になった和室は、立ち上る線香の匂いと降り続ける雨の音だけが満たされて、通常の時間軸からは切り離された世界のように、静かな時間が流れていた。  今までに過ごしたことのある通夜の夜に感じた言い表しようのない怖さは、不思議と感じなかった。  短くなったら線香を足し、ろうそくの長さを窺い、雨音に耳を傾ける。そうして流れる父との時間は、父の生前にはついに過ごすことのできなかった穏やかなときのようで、私はただただ、その時間に身を委ねるばかりだった。  どれくらいの時間が経ったか、降り続く雨音が部屋に染みるように柔らかくなった頃、ふいに何かが落ちるような、こつりと小さな音が部屋の向こうで聞こえて、私は意識をそちらへ向けた。     
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