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「少しは」
そう言って千穂はカーペットの上に座った。
僕は勉強机の椅子に座る。
「で? どうしたんだ」
「……男子と女子の友情って成立するのかな」
「何だよ急に」
「斗真はどう思う」
ほんの少しだけむくれて千穂が尋ねる。
「うーん。大人の男女の友情は成立しないって言うけど、僕達は中学生だろ? まだ子供だから成立すると思うなあ」
「じゃあさ、私達はいつ大人になるの? 高校生? ハタチ?」
「そんなの、人によるだろ」
そう言うと千穂はシュンとなった。
「今日、学校でなにかあったか?」
千穂は答えない。
沈黙した空気が重い。
僕はハッとする。
「またいじめか? 千穂は小学校の時仲間はずれにされていたよな。まあ、転校生の有美が友達になったけど。あ、有美と喧嘩したか?」
「違う。有美とは今日も一緒にご飯食べるくらい仲がいいよ」
そして千穂は何か続きを言おうとして、言葉を飲み込んだ。代わりに小さく、そういう事じゃないの、と言った。
これじゃあ埒があかない。
僕は何の気なしにさっきのラノベを本棚に戻す。
「斗真、美少女が好きなんだ」
振り返るとジトっとした目で千穂がこちらを見ている。
「ち、違う」
「やっぱり男子ってそうなのね」
「違うって言っているだろ。それに、女子だってアイドルにキャーキャー言ってるだろ」
「私はアイドルに興味ないから。斗真と違って」
「はあ?」
「斗真、アイドルのマナちゃんって子がタイプなんでしょう」
「おま、何言って」
「知ってるよ。いっつも斗真はテレビでその子ばっかり見てるもん」
「だってあの子は」
「あの子は?」
「何でもない」
僕は視線をそらした。
「あと、この本は大和の好みだから。僕は違うから」
言い訳するように僕は話す。
大和。と千穂が呟くとまた表情が曇った。
「何だ? どうした」
ピンポーンとまたチャイムが鳴った。
「誰だろ」
僕が呟くと千穂は立ち上がり、カーテンの隙間から玄関を見る。
「ヒッ」
漫画みたいに千穂の喉が鳴った。僕は吹きだした。
「何だよ。そんなに驚いて」
千穂は通学カバンと制服、タオルを持つとクローゼットを開けた。
「な、なにしているんだよ」
見られて困るものはないとはいえ、その行動に驚く。
いつもの千穂らしくない。
泣く事だって千穂らしくない。
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