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ボールの弾む音が体育館に響く。
私の視線は自然に大和くんへと向かう。
最上大和くん。学年1の人気者。優しくって成績優秀。おまけにスポーツ万能。ほら、今だって。
「大和、ナイッシュー」
バスケットゴールにシュートを決めると男子達が駆け寄る。
そのキラキラした笑顔に惹きつけられる。
「有美、得点係でしょ。点が入ったんだからめくってよ」
同じく得点係の奈美に言われて私は慌てて特典板のポイントを変える。
「大和、ナイッシュー」
女の子の声が体育館に響く。
千穂ちゃんだった。体育を見学しているから私服でいるのが目立つ。
「また千穂ちゃんだよ」
奈美は私に囁いた。千穂ちゃんとは5年1組の子のことだった。
背が高くてスポーツ万能。可愛いと分類される顔。けれど……
「千穂ちゃんってさ、いくら大和くんと幼なじみだからって調子乗ってない?」
またこの話か、と思った。
大和くんは人気者。でも千穂ちゃんと、斗真くんといつも3人でいる。
千穂ちゃんはいつも大和くんを独占している。そんな風にこの学年の女子は思っている。
それが理由か、千穂ちゃんは女友達がいない。
千穂ちゃんって○○だよね、なんて噂はよく女子トイレで聞く。
私は千穂ちゃんしゃべったことがない。ただ、噂を聞くだけだった。
「奈美、千穂ちゃんの事嫌いなの?」
「嫌いって言うか、男子に媚びてる感じが嫌っていうか」
私はふーん、と相づちをうつ。
「有美は嫌じゃないの? あの子は大和くんといっつも一緒にいるんだよ」
「私は見てるだけでいいの。それに、大和くんは千穂ちゃんと斗真くんと一緒にいる時が一番楽しそうだから」
「有美、健気―」
美奈は私に抱き着いた。
私は少し嬉しくて、少し恥ずかしくて抱擁を受ける。
美奈の背中越しに千穂ちゃんが見えた。
誰も近づかないでポツンと1人でいる。
ずっと目で大和くんの試合を追いかけている。
その姿は寂しそうな感じが一切しない。
でも、本当は?
女子の友達がいなくて寂しくないの?
千穂ちゃんの姿が私に重なる。
その姿は去年の私だった。
私は今年、この町に引っ越してきた。転校というと人によっては嫌なイメージがあるかもしれないけど、私は嬉しかった。と、いうのも私は前の学校で友達が出来なかったのだ。
毎日誰ともしゃべらない学校生活。いじめられているわけ
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