斗真

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 僕は雨の日が嫌いだ。あのじめじめした感じ。草木と土のむせ返るような臭い。雨のザーという音。全てが嫌いだった。  世の中には雨の日は学校を休む人が一定数いるらしい。  僕もそれだ。  雨の日は中学校を休む。  その癖がついたのは小学5年生の時だった。  ある日の体育の授業終わり。僕は聞いてしまった。  幼なじみの千穂は僕のせいで怪我した足が今なお雨の日に痛むという事を。  足に傷はあまり残っていないことは一緒にプールに入った時に気づいていた。  でも、未だに痛いだなんて。  その日から雨に日に千穂に合わせる顔が無くなった。  雨の日は憂鬱だ。  僕はベッドの中から時計を見た。  そろそろ下校の時間だった。  静かな室内に車が近づく音がした。  そして車が通り過ぎた。  シャーという水たまりの上を走る音が聞こえた。  僕は立ち上がってカーテンを閉め直す。  閉める前に少しだけ窓の外を見る。雨は降り止まなそうだった。  ひとつため息をつく。  今日の授業はどこまで進んだのだろう。でも、勉強する気になれない。  意味もなく本棚の前へ行き、並んだ本を見る。  そう言えばこの前、大和からラノベを借りたっけ。その本を手に取った時だった。  ピンポーンとチャイムが鳴った。  母さんが応対しているのだろう。1階から話が聞こえる。きっと宅急便か何かだろう。  ラノベを持って勉強机の椅子に座る。  それは主人公の男の子が異世界で美少女と旅をする話だった。  大和はこんな本を読むのか。パラパラとページをめくる。  タッタと誰かが階段を駆け上がる音が聞こえた。  誰だろう。大和か? そう思っているとバン、とドアが開いた。 「斗真」  ずぶ濡れの千穂が立っていた。 「どうしたんだ」  千穂は柄にもなく半泣きだった。  オロオロする僕だったけど、泣いている千穂を見ると冷静になった。 「とにかく着替えなよ」  僕は引き出しから洗い立てのパーカーとスウェット、スポーツタオルを出して渡す。 「……ありがとう」  僕は部屋を出た。 そしてドアにもたれる。  何で今日に限って千穂が家に来るんだろう。  廊下にいると雨の音がより一層響く。  しばらくしてドアが内側からノックされた。 「斗真。もういいよ」  僕は部屋へ入る。  僕の服を着た千穂がスポーツタオルで肩まである髪を拭いていた。 「落ち着いたか?」
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