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あれは、ある雨の日。
大学からの帰宅途中、私はよく行く公園へ向かっていた。
良くここで読書をしていた。
雨の音を聞きながら、この公園で読書をするのが好きなんだよね。
人気は少なく、木に囲まれ落ち着いた雰囲気の静かな公園だ。
いつも通り、読書をする屋根のあるベンチへ向かうと、一人のおじいさんが苦しそうにしゃがみこんでいた。
「大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?」
おじいさんは「いや、大丈夫です。その鞄の中にある薬を飲めば落ち着きます。すみませんが、お水を買ってきてもらえませんか?」
「わかりました。すぐに買ってきます!」
私は急いで近くの自動販売機へ水を買いに行った。
水をおじいさんに渡すと薬を飲んで次第に落ち着いてきたようだ。
だんだん表情が和らいでいった。
「親切なお嬢さんありがとう。お陰で助かりました」
「大したことはしていませんよ。もう体調大丈夫ですか?」
「はい。落ち着きました。
ところでお嬢さんは雨の日になぜこんなところへ?」
唐突だな。とゆかりは苦笑いを浮かべる。
「読書をしに来たんです。よくこの公園に来て本を読んでるんです。特に雨の日に読むのが好きで…」
「ほぉ。奇遇ですね。私も雨も読書も好きなんですよ」
「そうだ。助けて頂いたお礼といってはなんですが、これを受け取ってはもらえませんか?」
そう言って、おじいさんは私にある物を渡した。
「栞です。私のお気に入りの一品です」
木に桜の絵がかたどられた、とても美しい栞だ。
「素敵。でも、お気に入りならご自分で持ってる方がいいんじゃないですか?」
おじいさんはゆっくり首を振った。
「お嬢さんに貰ってほしいんです」
優しい笑顔だけど、断らせないような圧を感じた。
せっかくのご厚意なので受けとることにした。
「ありがとうございます。大事に使いますね」
おじいさんは立ちあがり、
「そうしてもらえると嬉しいです。
それでは私はこれで。本当にありがとう。またお会いできたらいいですね。その時はぜひ本の話でもしましょう」
そう言って去っていった。
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