雨の日の奇跡

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***** あれは、ある雨の日。 大学からの帰宅途中、私はよく行く公園へ向かっていた。 良くここで読書をしていた。 雨の音を聞きながら、この公園で読書をするのが好きなんだよね。 人気は少なく、木に囲まれ落ち着いた雰囲気の静かな公園だ。 いつも通り、読書をする屋根のあるベンチへ向かうと、一人のおじいさんが苦しそうにしゃがみこんでいた。 「大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?」 おじいさんは「いや、大丈夫です。その鞄の中にある薬を飲めば落ち着きます。すみませんが、お水を買ってきてもらえませんか?」 「わかりました。すぐに買ってきます!」 私は急いで近くの自動販売機へ水を買いに行った。 水をおじいさんに渡すと薬を飲んで次第に落ち着いてきたようだ。 だんだん表情が和らいでいった。 「親切なお嬢さんありがとう。お陰で助かりました」 「大したことはしていませんよ。もう体調大丈夫ですか?」 「はい。落ち着きました。 ところでお嬢さんは雨の日になぜこんなところへ?」 唐突だな。とゆかりは苦笑いを浮かべる。 「読書をしに来たんです。よくこの公園に来て本を読んでるんです。特に雨の日に読むのが好きで…」 「ほぉ。奇遇ですね。私も雨も読書も好きなんですよ」 「そうだ。助けて頂いたお礼といってはなんですが、これを受け取ってはもらえませんか?」 そう言って、おじいさんは私にある物を渡した。 「栞です。私のお気に入りの一品です」 木に桜の絵がかたどられた、とても美しい栞だ。 「素敵。でも、お気に入りならご自分で持ってる方がいいんじゃないですか?」 おじいさんはゆっくり首を振った。 「お嬢さんに貰ってほしいんです」 優しい笑顔だけど、断らせないような圧を感じた。 せっかくのご厚意なので受けとることにした。 「ありがとうございます。大事に使いますね」 おじいさんは立ちあがり、 「そうしてもらえると嬉しいです。 それでは私はこれで。本当にありがとう。またお会いできたらいいですね。その時はぜひ本の話でもしましょう」 そう言って去っていった。
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