雨の日もあなたの隣にいたかった

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『恋愛成就って、心(こころ)のおかげだったりするの?』  だるっと着崩した制服を今ではすっかり様になった姿で、奏多が笑いかけてきたあの日だった。  中学一年生を終わる頃あたりから一気に伸びた奏多の身長はわたしよりもぐんと高くなり、ふたりで覗き込んだ水面には頭一つ分くらい大きい奏多の姿と、気まずそうに隣に立つ私の姿が見えた。  わたしがいつもここに二人で並ぶたび、ドキドキしていたのはわたしだけの秘密。 『う、ううん。わたしがここで見えている人のことは誰も知らない』  奏多だけだった。  奏多と、死んだおばあちゃんだけ。  おばあちゃんがあまり言わない方がいいと言っていたから、わたしはずっとそれを守っていたし、奏多も言わないでいてくれた。今なら、おばあちゃんがあの時口止めをしてきた意味も分かる。 『それにしても、すごいよな』  奏多がわたしの方に向き直り、柔らかい笑顔をわたしに向けてくる。  そこで、はっとした。 『自分の相手も、見えたりするの?』  奏多の質問には答えられなかった。  答えるというより、その問いは耳に入ってこなかった。  背を向けている奏多のそのとなりに映る女性の姿。今まで気づかなかった。  長くて美しい髪を背に靡かせ、幸せそうな瞳をむけるきれいな女性の姿。  わたしは目の前が真っ暗になった。  あの後のことは、覚えていない。  それから奏多を避けはじめたら、いつの間にか受験の季節がやってきて、奏多も忙しくなったのか姿を見せることはなくなり、それからは用もない限り会うこともなくなった。  奏多の存在がわたしの中から消えた一年間、わたしはあの水辺へ近づくことはなくなっていた。  うらやましいと思っていた。  神社で手を合わせた後に、美しいと水面に浮かぶアジサイの花を眺める女性たちの隣に映る男性たちは、いずれ彼女たちがまたこの斎の森神社に連れてきてくれることになる。お礼の意味も込めて。  その幸せそうな姿に、いつもうらやましいと思っていた。
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