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「心が会いたくないなら仕方がない。受験が終わったらまた会いに来ようかと思ってたけど、心が納得できるのは今しかないから」
アジサイの花が美しく咲いた頃、わたしは不思議な出来事を体験する。
「だ、だって、運命の相手はわたしじゃない」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
気づいたら目と鼻の間くらいがツーンと痛くて、とめどなくあふれてくるのが涙だとわかった。
「わたしが見た奏多の相手は、わたしじゃなかった」
自分じゃないみたいだった。
金切声という声はこういう声のことを言うのだなと冷静に考える自分がいる反面、息を切らしたわたしは奏多の腕を振り払っていた。
一年前に感じた恐怖がまた蘇り、口元が震える。
「隣にいるのは、わたしじゃなかった」
だから、今、奏多が何を無意味なことをしようとしているのか、理解ができなかった。
声が震える。
こんな姿、見せたくなかった。
今までこんな気持ち、絶対に知られないようにしていたのに。
「じゃ、じゃあ・・・」
私とは反対に、いつの間にか冷静な瞳を取り戻した奏多が、じっとわたしを見つめていた。
「心も、ここにおれと一緒に映る相手は自分であってほしいと、思ってたってこと?」
もう、聞かないで。
しゃくりあげて声が出なくなったわたし。
その姿を見て、奏多の表情が少し和らいだのが見えた。
「俺がここでいつも隣に見てたのは、心だから」
ぼやけた視界の中で、奏多が笑った。
それは、梅雨明けに差し込む光のように明るい笑顔だった。
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