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雨枯らし
記録的な雨が続き、各地で被害が出ております
庄助はカウンターに肘をつき、手に顎を乗せてぼんやりとテレビを眺めていた。深刻そうな表情を浮かべるニュースキャスターとは正反対にはっきりとしない表情を浮かべながら掌でざらざらと無精髭を転がす。
「かーっ!やられたー!」
背後から聞こえる声の主は八百屋のカオル。ツルピカ頭のてっぺんまで真っ赤にして、イヤホンを机に叩きつけると競馬新聞をぐしゃりと丸めた。
「ロン!」
「げ!」
カオルの手前のテーブルからはオヤジ達の歓喜と悲鳴が湧く。肉屋のナオちゃんの「しっしっし」と笑う声と力なくため息をつく魚屋の竜司。間を挟んで豆腐屋のノリオがほっと胸を撫で下ろす。
「メンタンピンツモドラドラ!」
「ナオちゃんすごいなぁ」
「ちっ。ほらよ!」
点棒をぶっきらぼうに投げた竜司は
「庄助、チャーハン!」
言葉荒々しく注文する。
「じゃあ俺はラーメン」
「唐揚げ定食ね」
庄助は生返事をしてからゆっくりと立ち上がり厨房へ入った。年季の入った油の匂いと靴底が貼りつき歩くたびにベリベリ鳴る床。その中でいやにピカピカの冷蔵庫から食材を取り出し、調理を始める。
「カオル、そろそろ入れよ」
「ダメだ。次レース自信あるんだ」
「ナオちゃん、タバコ一本ちょうだい」
平日の昼下がり。暇を持て余した商店街の親父達はわいわいと呑気に娯楽に興じている。世間は大変なことになっているっていうのに。
適当に盛りつけたまかない飯をカウンターに出すと、親父達は麻雀、競馬をピタリとやめて飯にありつく。
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