雨枯らし

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庄助も厨房から出てカウンター席に戻るとタバコをふかし始め、再びテレビを眺めた。どのテレビ局も今の異常気象についての話題ばかり。 「庄ちゃん」と声をかけたのは魚屋の竜司。 「今日雨の日デーじゃなかったっけ?」とニヤついて惚けてみせた。竜司は分かってて言ってるのだが、そのニヤケ具合に少し腹が立ってカオルの競馬新聞を奪ってポカンと頭を叩いた。 「お前ミヨちゃんに太ったって言われてただろ?サービス小盛りだ、馬鹿野郎」 雨の日デー。親父の頃からやってるウチのサービスだが、雨の日に来たお客さんには大盛りサービスをしていた。おかげでうちはこのご時世でも、なんとか昼間の客入りは悪くない。 「でも偉いよな、庄ちゃんのとこはさ。『普通の客』には大盛りサービスは続けてんだからさ。俺んとこなんてもうサッパリ」 その話をすると全員、一瞬微妙な顔をして、少し嫌な間が生まれて流れた。節電という名の薄暗い店内に窓をべったりと貼りつくような嫌な雨の音。どこか晴れない自分達の境遇に重ねてしまっているようだった。 そんなじっとりした空気を打ち破ったのは八百屋のナオちゃんだった。 「こればっかは仕方ねぇよ。お天道様の気分が晴れりゃ、天気もいつか晴れる!よし続きやろうぜ。庄助も次入れよ」 そう言って雀卓と化したテーブルに戻っていくと、みんな戻っていった。 庄助はタバコをもう一息吸い込んで、流れるテレビに目をやる。 観測史上最長になる降雨。明日で5ヶ月目に突入します。各地では土砂災害、河川の危険水域警報の発表には十分注意してください。 庄助は遠くを見るように目を細めながら、吸い終えたタバコを灰皿に詰ると、小さくため息をついた。
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