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観測史上最長の長雨は遂に8ヶ月目を迎えた。
通年であれば梅雨明けも過ぎ、夏真っ盛りの季節。
カラッとした暑さも、夏休みに突入したちびっ子ヤンキー達の街中を自転車で駆け抜けていく騒がしさも、どうやら今年は望めそうにもない。
全国各地で被害が出ている。常に大雨ではなく、小雨日も多いため、洪水等の大災害には至ってないが「時間の問題」とテレビのコメンテーター達はさも自分の意見のように連日主張している。
しかし庄助にとってそんなことはどうでもよかった。彼が頭を悩ませているのは『雨の日デー』のことだ。小麦粉も米も値上がりし続けている。
「大将、チャーハン小盛り」
「あいよ」
今日も昼時の店内はお客さんで賑わっていた。そして何かを取り戻すように人々の安心した笑顔で溢れていた。
誰だって鬱憤が溜まるはずだ。空を覆った分厚い雲は8ヶ月前から根を張ったようにビクともせずに居座り続け、人々から青空と太陽を奪っているのだから。
「へい、お待ち」
「あれ?これ大盛りじゃない?俺小盛り頼んだはずなんだけど」
常連のサラリーマンは戸惑う。
「お客さんいつも大盛りだろ?」
「いいのに。無理しなくて」
「気にする必要ないよ。顔に『大盛り食べたい』って書いてるんだから。さあ食った食った」
目を丸くしていた男は口をきゅっと結び「ありがとう」と感謝を述べて勢いよくチャーハンを口に掻き込んだ。
その食いっぷりを眺めて思う。
俺は『雨の日デー』をやめる気はさらさら無い。値段も上げない。量も減らすものか。
こんな雨に負けてたまるか。そう強く誓った。
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