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「『雨宮の力』が必要なんだってさ」
「でしょうね。最近、全国で土砂崩れや洪水が多発してるもの」
「……」
「それで?庄ちゃんはどうするの?」
「断ったよ」
庄助は身体の芯にグッと力を入れて、言葉を押し出すようにそう答えた。
「それなら仕方ないわね。もう少し雨の日を楽しもうかしら」
「……ミヨちゃんはそれでいいと思う?」
庄助の問いを背中で受けた彼女はすぐ答えることはなかった。しん、と静まり返る店内に蛇口から流れ出す流水の音だけが響く。
蛇口がキュッと閉まる音が聞こえた。その瞬間、勢いよく顔面に冷たい感触がぶつかってきた。
突然のことで一体何が起きたのか分からなくなったが、目の前にいるミヨちゃんは悪戯っぽく笑っていて、手持っていた空のコップの口がこちらを向いていた。
「これが答えでいいかしら」
ぐっしょり濡れた庄助はまだ目をパチクリさせて、動けなかった。だけど胸につっかえてこびりついていたアレはスッとどっかに消えていくのを感じた。
「あら、水も滴る良い男の顔つきになったじゃない」
「元々だよ」
「そうだったかしら」
ミヨちゃんの冗談もすんなり受け入れられるくらい心に余裕ができたのか、庄助は久しぶりに笑った。その姿を見て、ミヨも嬉しそうに目を細めた。
「ミヨちゃん、ありがとう。『雨枯らし』する決意固まったよ」
「でも大丈夫?庄ちゃんが力使いたくない気持ち、痛いほど分かってるから」
「大丈夫だよ。アイツも生きてたら『こんな時に力使わなくてどうする!?』って叱咤してくれてると思うからさ」
「ふふっ、そうかもね」
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