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「おそいよ」
いつものバス停前。木材でできた雨風よけのあるベンチの前に、君は座っていた。
待ち合わせ一分前。間に合ってるんだから、僕にしては敢闘賞ものだよと、いうと、いつものしかめっ面。目は口ほどに、ならぬ、顔は言葉以上に、だ。
「まぁ、間に合っただけ良かったけどね」
そういって、君はやれやれといった表情に崩した。
あれ?っと思う。いつもなら、下手をすればバスの車中でも、果ては僕の普段の素行についてまで心配してくるものだが、今日はあっさりと引いた。
いささか説教を受ける覚悟をしていた僕は、間の抜けた顔をしていたのだろうか、君はその表情を更に崩して笑った。屈託のない笑顔だった。
間も無くやって来たバスの車中でも、君はまだ思い出したように吹き出していた。
そんなに変な顔をしていたのか……
でも変といえば、今日は初めから変なことばかりだ。
そもそもなんであんな朝に突然誘ったんだ?
思っていた疑問を投げかけると、君は空を見るような仕草をして、
「そんな日もあるんだよ」
とだけ答えて、あとは窓の景色を眺めはじめた。
らしくないな、と言いそうだったが、飲み込んだ。
窓ガラスに映る君の横顔が、とても嬉しそうだったから。
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