第3章

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今日は隣町の知り合いが経営する保育園に来ていた。子どもたちは初めてくる私たちに興味深々で、なかなか落ち着いて話ができない。だから、私は桐生院を犠牲にすることにした。 「よし、じゃあ、お兄さんと遊んでおいで。私は先生と話があるから。桐生院!」 「おい!俺は、子供が!」 後ろでチラシの束をもっていた桐生院は急に名前を呼ばれて驚く。どんどん子どもに取り囲まれていく。 「ヒーローごっこしよ!」 「おままごとがいい!」 「鬼ごっこ!」 子どもたちは目を輝かせて、桐生院の手をひっぱり、外へ連れ出した。 「ごめんね。梓ちゃん。騒がしくて」 「いえ、こちらのお願いを聞いていただいてありがとうございます。先生」 母の知り合いである園長先生はにっこり微笑みながら、チラシを受け取る。 「保護者の方々にも聞いてみるわ。…ところであの子大丈夫かしら」 「大丈夫ですよ。体力はありますから」 2人で桐生院と子どもたちの様子を見た。最初は戸惑っていた桐生院だったが、今は楽しそうに子供たちと遊んでいる。 「全くあんな顔できるのに、何やっているだか」 私は笑顔の桐生院を見て、自然と口角が上がるのがわかる。 「あの子は、梓ちゃんの彼氏なの?」 私の顔を見て、先生はニコニコしながら聞いてきた。なぜ、顔が熱くなる。 「そ、そんなじゃあないです。ただの後輩です」 「そう?」 何もかも見透かされている気がしたが、先生は何も言ってこなかった。 「桐生院!帰るぞ!」 気まずくなって、桐生院を呼びに駈け出す。 それまでにこの顔の温度が冷めればいいと願いながら。 なんとか子供たちから解放された桐生院は文句をぶつぶつ言っていた。 それはスルーして、私はなんとなく思っていた疑問をぶつけることにした。 「ねぇ、なんで入学式の事件を起こしたりしたの?」 桐生院が停学となって、ヤンキーイメージをみんなに植え付けたきっかけの出来事だ。 同級生にも聞き込みを行ったが、私とは違うクラスのやんちゃ集団の4人を桐生院が殴って全滅させたというのは事件概要だ。相手はそれほど大きいけがではなかったらしいが、入学式というのもあって保護者の目もあったことから重い処分にしたという。 ボクシングをやっていた桐生院は手加減をしたということになる。ちゃんと理性的であったということだ。
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