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「その結び目が、いつか大きな障害になるんだと思う。きっと」
「そう……」
苦笑した紗英が遠ざかる。その表情に、痛ましさに、激しく愛しさを覚える。けれどその情動は、いつかの情熱のようにいずれ冷めてしまうものなのだろう。だから、何も言わない。
「私も、あなたみたいにクールでいられたらなあ……」
震えて濡れた声が、哀れみに似た感情を生じさせる。
だけど、いけない。
僕は紗英のことを本当に想ってこそ、別れるのだから。
それから、お互いぽつぽつと小雨のような他愛のない会話を繰り返した。いつしか乾燥機が仕事を終え、紗英の髪も乾いた。
再び自分の服に着替えた紗英が帰る。もちろん、ドライヤーも持たせた。
僕は二本あるコンビニ傘のうちの一本を持たせた。
「また返しにこなきゃいけないよ?」
「いい。使わなければ捨ててくれ」
「……うん」
紗英が扉を開けた。
雨はほとんど止んでいて、傘も必要ないほどだった。けれども紗英は傘を持ったまま、僕の部屋を後にした。
あの傘が、そこから思い起こされる記憶が、果たして彼女に何をもたらすのだろう。
扉を閉め、脱衣所の洗濯籠から紗英がさっきまで着ていた服を出し洗濯機に入れる。ボタンを押すと、うなり声を上げて洗濯機が動き始める。
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